突発性難聴の発症メカニズム
1.内耳の血流障害(最も有力なメカニズム)
内耳(蝸牛)は非常に細い血管(蝸牛動脈)1本で栄養されているため、血流が少しでも低下すると有毛細胞がすぐに障害されます。
血流障害が起こる過程は、ストレス・睡眠不足・過労などにより自律神経の交感神経優位になり栄養血管である蝸牛動脈が収縮し、内耳の酸素供給が低下を来すことによって有毛細胞が虚血(酸欠)で機能停止になり数時間〜数日で難聴が発症する。
有毛細胞はなぜ虚血に弱いのか?
有毛細胞は代謝が非常に高く、酸素消費量が多く血流が途絶えると数時間で不可逆的障害が起こり、再灌流(再度血流が流れ)しても完全に回復しないことが多い。
*不可逆的障害とは血液の流れが滞ることで細胞や組織がダメージを受け、血流が再開されても元の正常な状態に戻らなくなった状態を指し、時間経過による細胞の壊死(死滅)が起こる。
2.ウイルス感染(ヘルペスウイルスが有力)
突発性難聴の患者の一部で、ヘルペスウイルスの再活性化が示唆されています。
ウイルス発症の過程でもストレス・疲労が重要なキーワードになります。 ストレスにさらされると免疫力が低下し、体内に潜伏(神経節)していたヘルペスウイルスが再活性化し、内耳の神経節・蝸牛に炎症を引きお越し浮腫・血流障害によって有毛細胞の機能障害によって発症します。
- 自己免疫反応(内耳自己抗体)
内耳の構造に対して自己抗体が産生されることで炎症が起こる説です。
発症過程は免疫異常による内耳の抗原に対する自己抗体が産生することです。自己抗体が産生すると内耳に炎症が起こり、 血管条(内耳の血流を調整する組織)が障害を来たし、有毛細胞の機能が低下して発症します。
突発性難聴の症状
(1)主症状
片側(まれに両側)の急激な難聴
朝起きたら聞こえない/電話の受話器を変えて気づく、などが典型
(2)随伴症状
耳鳴り:キーン、ザー、ボーなど多様
耳閉感:水が入った感じ・膜が張った感じ(詰まった感じ)
音が響く・割れる(聴覚過敏)
めまい・吐き気(あると予後不良)
検 査
(1)純音聴力検査(オージオメトリー):診断に必須
(2)耳鏡検査:外耳・鼓膜の異常を除外
(3)MRI:聴神経腫瘍などの鑑別
(4)めまいがあれば眼振検査
(5)血液検査:自己免疫・感染症の除外
医療的治療(西洋医学)
ステロイド治療(内服・点滴・鼓室内注射):最も一般的
血流改善薬(循環改善薬・代謝改善薬・ビタミンB12)
高圧酸素療法(内耳への酸素供給改善)
抗ウイルス薬(ウイルスが疑われる場合)
補聴器(改善が乏しい場合)
予 後
治療開始までの日数:
発症〜7日以内:治癒率約60%
7〜13日:治癒率約40%
14日以降:治癒率約30%
*1〜2週間以内の治療開始が極めて重要
めまいがあると治癒率が低下(20%程度)
めまいなし:治癒率約50%
めまいあり:治癒率約20%
日常生活での注意点
発症直後は安静・睡眠確保・ストレス軽減
大きな音を避ける
アルコール・喫煙を控える
血流悪化を避けるため冷え対策
早期に耳鼻科受診(最重要)
東洋医学では突発性難聴を以下のように捉えます
(1)肝気鬱結(ストレス)
ストレス・怒り・抑圧 → 気滞 → 頭頸部の気血の巡り低下→突然の聴力低下
(2)瘀血(血流障害)
微小循環障害 → 内耳の栄養不足 → 難聴・耳鳴り・耳閉感
(3)腎精不足(加齢・疲労)
「腎は耳に開竅する」
加齢・慢性疲労・性労など → 腎精不足 → 聴覚低下
(4)風邪(ふうじゃ:感冒・インフルエンザなど)
急激な変化を起こす外邪としての「風」→ 突然の症状が発症
鍼灸治療(目的・効果)
(1)西洋医学と併用すると予後が良好
(2)頸肩部筋緊張の緩和 → 椎骨動脈の血流改善
(3)内耳循環の改善
(4)自律神経調整(交感神経過緊張の緩和)
(5)気血の巡りを整える
実際の治療ポイント
耳周囲の経穴
聴宮(耳前)
聴会(耳珠の後ろ)
翳風(耳後ろのくぼみ)
完骨(乳様突起後方)
頸肩部(胸鎖乳突筋・僧帽筋・板状筋)の緊張緩和と血流改善)
天柱
風池
肩井
全身調整
合谷(気血調整)
太衝(肝気鬱結の改善)
腎兪(腎精補益)
太渓(腎の要穴)
まとめ
突発性難聴は早期治療が最重要で、医療機関でのステロイド治療が基本です。
東洋医学では「気血の滞り」「ストレス」「腎精不足」などを背景に、鍼灸で内耳の血流改善・自律神経調整を図ります。
西洋医学と鍼灸の併用は予後改善の可能性があります。
