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持続性知覚性姿勢誘発めまいと心因性めまいについて

1.持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)とは
2017年にBarany Societyが正式に疾患概念として定義した、慢性の非回転性めまい・浮動感・不安定感が3か月以上続く状態で、以前の「心因性めまい」「慢性前庭症」「視覚依存性めまい」などを統合した現代的診断名である。

1)病態生理 『PPPDの本質は 脳の感覚統合の“過敏化”と“偏り”』
①感覚統合の偏りとは(視覚依存の亢進)
本来、平衡とは前庭(内耳)・視覚・体性感覚(深部感覚)を統合して行っています。PPPDでは、前庭入力が不安定になった後、脳が視覚入力に過度に依存するようになるため、スーパーや駅の雑踏、PC・スマホ画面、早い動きの映像などで強いふらつきが出現する。
②前庭代償の過剰な防御反応
前庭障害や強いストレスをきっかけに、脳が「揺れに敏感な状態」で固定され、過剰な姿勢制御(体を固める)、過剰な予測制御(揺れを予測しすぎる)などの慢性的な不安定感・疲労感が続く状態になる。
③不安・ストレスによる増悪
不安は前庭皮質(島後部・頭頂葉)を過敏化させるため、心理的ストレスが症状を悪化してしますが、ふらつきの原因そのものではなく、増悪因子(誘発因子)になる。

2)典型的な症状
①ふわふわする浮動感
②立位・歩行で悪化
③視覚刺激(人混み、スクリーン)で悪化^
④姿勢変化で誘発
⑤回転性めまいは少ない
⑥不安は「結果として」出ることが多い

3)きっかけ(トリガー)
①良性発作性頭位めまい症(BPPV)、前庭神経炎、メニエール病などの前庭疾患
②強いストレス・不安
③過換気
④頭部外傷
⑤感染症後の体調不良
⑥心因性めまい(心理的要因によるめまい)

2.心因性めまいとは
不安障害・パニック障害・うつ病などの心理的要因が中心となり、身体症状としてめまいが出現する。医学的には「身体表現性障害」「自律神経失調」「過換気症候群」などが含まれる。

1)病態生理
①自律神経の過活動
不安交感神経が過剰に働く→ 心拍増加・血管収縮・呼吸促進→ 脳血流の揺らぎめまい感
②過換気(呼吸性アルカローシス)
不安・緊張呼吸が浅く速くなる→ CO₂低下脳血管収縮→ 手足のしびれ・ふらつき・浮動感
③身体感覚の過敏化
不安が強いと、心拍・呼吸・体の揺れなどの“正常な身体感覚”を異常と感じてしまう→ 「倒れそう」「ふわふわする」と感じる。

2)典型的な症状
①ふわふわする浮動感
②過換気(息苦しさ、胸の圧迫感)
③動悸・発汗
④手足のしびれ
⑤パニック発作
⑥不安が強いと症状が悪化
⑦身体検査では異常が出ないことが多い

3.PPPDと心因性めまいの違い

PPPD 心因性めまい
主 因 感覚統合の過敏化・前庭代償の不適応 不安・自律神経・過換気
発症のきっかけ 前庭疾患が多い 心理的ストレスが中心
症 状 視覚刺激・姿勢で悪化 不安・呼吸で悪化
回転性めまい ほぼない ない
身体検査 前庭機能は軽度異常〜正常 基本正常
経 過 慢性化しやすい 不安の改善で軽快しやすい

4.PPPDと心因性めまいへの対応
PPPDは「脳の感覚統合の過敏化偏り」が固定されているため、前庭リハビリ・認知行動的アプローチ・適切な薬物療法が組み合わされることが多い。
心因性めまいは、不安のコントロール・呼吸法・心理療法が中心になる。
どちらも「気のせい」ではなく、脳と身体の仕組みに基づく“実在する症状”です。

5.東洋医学的ではどの様に考えるか
東洋医学では、PPPDや心因性めまいを「前庭の障害」や「感覚統合の不適応」といった西洋医学的な器官別の捉え方ではなく、気・血・水の失調、臓腑のアンバランス、心身一体の乱れとして理解されている。つまり、身体と精神を分けずに「全体のバランスが崩れた結果としてのめまい」と捉えるのが特徴です。以下では、東洋医学的にどのように分類し、どのような病態として理解するかを体系的に説明します。

1)東洋医学での基本的なめまいの捉え方
東洋医学では、めまいは主に以下の失調から生じると考えれる。
①気の乱れ(気虚・気滞)
②血の乱れ(血虚・瘀血)
③水の乱れ(痰湿・水滞)
④臓腑の失調(肝・腎・脾)
⑤心身の不和(心・肝の乱れ)

PPPDや心因性めまいは、このうち 「気」「水」「肝」「心」 の失調が中心になる。

 

(2)PPPDを東洋医学でどう捉えるか
①肝気の失調(肝気鬱結)PPPDによる「視覚刺激で悪化」「緊張で悪化」「姿勢で誘発」などは、肝がストレスでうまく気を巡らせられない状態と考える。肝は「気の流れ」「自律神経」「平衡感覚」を主り、ストレスや前庭障害後に肝気が滞り、気が頭部にうまく届かず、ふらつきが続き、慢性的なふわふわ感・不安定感につながる。

★肝気を整える(ストレス緩和・気の巡り改善)
1)鍼灸治療
肝の経絡を調整(太衝・行間)
自律神経調整(内関・神門)
2)養生(生活改善)
ゆっくりした呼吸
過度な緊張を避ける
目の使いすぎを避ける

②痰湿によるめまい
PPPDによる「視覚依存」「姿勢で悪化」「長期化」は、 痰湿(水の滞り)が頭部に停滞している状態と考える。水分代謝が悪いため頭部に“重さ”や“濁り”が停滞し、視覚刺激で悪化しやすいくなり、頭重感・ふらつき・視覚過敏が出る。

★痰湿を取り除く治療(水の滞りの改善)
1)鍼灸治療
胃腸の調整(足三里・中脘)
水分代謝の改善(陰陵泉)
2)養生(生活改善)
冷たいもの・甘いものを控える
適度な運動で水分代謝を促す

③腎虚による平衡機能の低下
腎は「耳」「平衡」「脳」を主るとされるため、前庭障害後の慢性化は腎の弱り(腎虚) として理解される。また、加齢・疲労・病後で腎が弱ると平衡機能が低下し、慢性的な不安定感が続くようになる。

★腎を補う(平衡機能の底上げ)
1)鍼灸治療
腎の経絡(太渓・復溜)
2)養生(生活改善)
睡眠の質を上げる
過労を避ける

(3)心因性めまいを東洋医学でどう捉えるか
心因性めまいは、東洋医学では 心と肝の乱れることによって現れる。
①心気不足(心の気が弱る)
不安・緊張・ストレスが続くと、心の気が不足し、動悸・息苦しさ・ふわふわ感・不安感が現れる。これは心因性めまいの典型的な症状の一つである。

★心を安定させる治療(精神の安定)
1)鍼灸治療
心の経絡(神門)
自律神経調整(内関)
2)養生(生活改善)
深い呼吸
過換気を防ぐ呼吸法
睡眠の改善

②肝気上逆(肝気が上に昇りすぎる)
不安や怒り、緊張で肝気が上に昇ると、頭がふわっとする・めまい・のぼせ・イライラが出る。

★肝気上逆を抑える治療(イライラ・緊張の改善)
1)鍼灸治療
肝の経絡(太衝)
頭部の緊張緩和(風池)
2)養生(生活改善)
深い呼吸(細く長く吐き出す:腹式呼吸)
軽い運動
柑橘系の香り
苦味のある食材を取り入れる(辛味の強いスパイスは避ける)

③痰気の上擾(痰湿が上で乱れる)
ストレスで水分代謝が乱れ、痰湿が頭部に上ると、頭重感・ふらつき・視界の不安定・不安感が出る。

★痰気の上擾を改善(頭重感・ふらつき)
1) 鍼灸治療
胃腸の調整(足三里)
水分代謝の改善(陰陵泉)
2)養生(生活改善)
適度な運動で汗を軽くかく
夜遅い食事は控える
リラックスできる時間を意識的に作る

【PPPDと心因性めまいのまとめ】

病態 東洋医学での主因 西洋医学での理解
PPPD 肝気鬱結・痰湿・腎虚 感覚統合の過敏化・前庭代償の不適応
心因性めまい 心気不足・肝気上逆・痰気上擾 不安・自律神経・過換気

【PPPDと心因性めまいの治療の違い(東洋医学)】

病態 主な治療法 重要な臓腑
PPPD 肝気の巡り改善+痰湿除去+腎を補う 肝・脾・腎
心因性めまい 心を安定+肝気上逆を抑える+痰気の調整 肝・脾・腎

7.めまいに使う主要ツボ(目的別)

1)自律神経を整えるツボ(PPPD・心因性めまい共通)
① 内関(ないかん)
場所:前腕内側、手首のしわから指3本分上
作用:自律神経調整、胸のつかえ、不安、乗り物酔い
特徴:めまい治療で最もよく使われる万能ツボ

②神門(しんもん)
場所:手首の小指側のくぼみ
作用:精神安定、不安、動悸、睡眠改善
心因性めまいで特に重要

③太衝(たいしょう)
場所:足の甲、親指と人差し指の間
作用:肝気の巡り改善、ストレス緩和
PPPDの「肝気鬱結」に最適

2)水分代謝(痰湿)を整えるツボ(PPPDで重要)
①足三里(あしさんり)
場所:膝下外側
作用:胃腸強化、水分代謝改善、疲労回復
PPPDの「痰湿」改善に必須

②陰陵泉(いんりょうせん)
場所:膝内側の下
作用:水の滞りを除く、むくみ、頭重感
視覚刺激で悪化するタイプのめまいに有効

③中脘(ちゅうかん)
場所:みぞおちとへその間
作用:胃腸の調整、痰湿改善
頭の「重だるさ」を伴うめまいに使う

3)平衡感覚(腎)を補うツボ(PPPDの慢性化に)
① 太渓(たいけい)
場所:内くるぶしとアキレス腱の間
作用:腎を補う、耳・平衡機能の強化
加齢性のふらつきにも使われる

②風池(ふうち)
場所:後頭部のくぼみ
作用:頭部の血流改善、耳の症状、めまい
前庭系の不調に広く使われる

4)気の巡りを整えるツボ(心因性めまいで重要)
①合谷(ごうこく)
場所:手の甲、親指と人差し指の間
作用:気の巡り改善、頭痛、ストレス
心因性めまいの「気滞」に有効

②百会(ひゃくえ)
場所:頭頂部
作用:気の上逆を整える、精神安定、ふらつき
心因性めまいの代表ツボ

5)胸のつかえ・過換気を整えるツボ(心因性めまい)
①膻中(だんちゅう)
場所:胸の中央
作用:胸のつかえ、不安、呼吸の乱れ
過換気を伴うめまいに使う

②気海(きかい)
場所:臍下
作用:気を補う、呼吸を整える
心因性めまいの「心気不足」に対応

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